大阪国際大学 外島健嗣 教授
投資初心者の資産運用は安定性と節税に注目

低金利が長引く現代、もはや「貯蓄から投資へ」という言葉は誰でも耳にしたことがあるのではないでしょうか。

そんな流れから銀行預金だけではだめだと思いつつも投資にはリスクが付き物ですから、未だに資産運用に一歩踏み出せない方も多いのではないでしょうか。始めるにしても、最初はリスクの少ない投資から進めていきたいですよね。

そこで今回、安定的な資産運用方法について、大阪国際大学の外島健嗣教授に取材を通じてご意見をお聞かせいただきました。

インタビューにご協力頂いた方

大阪国際大学 経営経済学部 教授
外島 健嗣(そとじま けんじ)

岐阜聖徳学園大学経済情報学部専任講師・助教授・准教授、大阪国際大学ビジネス学部准教授を経て、現在、同大学経営経済学部経済学科教授。この間、近畿大学・大阪産業大学・関西大学非常勤講師を歴任。
主に株式市場の流動性に関する研究を専門にしています。
著書に『証券投資の基礎知識』(共著、晃洋書房)、『現代日本の金融取引入門』(共著、晃洋書房)等があります。

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資産運用では資金の性格・リスクとリターン・資金配分が重要

まず、今後は誰にとっても、何かしらの形で資産運用を行うことは大切です。ご承知の通り、昨今の社会情勢を見ても様々な物価が上がり続けていますよね。身近なところで言えば、電気代・ガス代・ガソリン代はもちろん、その他に肉・野菜・加工品といった各種食品の価格も上昇の一途を辿っています。対して、少子高齢化による人口減の影響で、国民の平均所得はなかなか増えませんし、税金や社会保障費などは上がり続けています。節約に注力したとしても、それでお金を増やすには限界があるでしょう。したがって、これまで貯蓄一辺倒だった方々にとっても、資産運用について真剣に考えなくてはならないタイミングと言えます。

ただ注意していただきたいのは、とにかく資産運用ならどんな方法でも良いというわけではありません。一昔前に「億り人」という言葉が流行っていたせいか、資産運用と聞くと仮想通貨(暗号資産)などのような価格の変動幅が大きい資産への投資をイメージされる方も多いのではないでしょうか。まして、一攫千金を狙ってそうしたハイリスクな商品へ全財産を投入しようという発想は危険です。資産運用を行うにあたって大切なのは、生活費・教育費・住居費・老後の備え等、どんな目的で運用を行うのかという「資金の性格」、そして「リスクとリターン」の関係、さらには「資金配分」について慎重に考えることです。

安定的な資産運用とは、資金の性格を見ながらリスクとリターンのバランスを考え、最適な資金配分に基づいた投資を行うことで初めて可能になります。そのためには、新聞や本はもちろん、テレビ・インターネット・SNSなど各種メディアの経済関連ニュースなどから、社会情勢に関する情報を日々収集する習慣が欠かせません。

ちなみに、安定的な資産運用と聞くと、即座に銀行預金を連想する方も多いことでしょう。確かに銀行預金も資産の配分対象の一つであることに違いはありませんが、いくらリスクが低くても銀行預金は資産運用には向きません。なぜなら、銀行預金ではほとんどお金が増えないからです。

銀行預金でお金を増やしたいと考える方の多くが利用しているのは、大手銀行の定期預金ではないでしょうか。大手銀行の定期預金口座の平均的な金利は0.002%ですから、もし500万円を預金しても一年後に得られる利息は100円です。しかも銀行預金には源泉分離課税等がかかるため、そこから更に約20%差し引かれます。したがって銀行預金では、せっかく大きなお金を長期間運用しても、手元には利益がほとんど残らないのです。

このように、運用先を決めるにあたって大切なのは、運用資金に対してどれだけのリターンが期待できるのかをしっかり計算することです。ちなみに、先程の銀行預金の計算では一年後に得られる利益を予測してみましたが、数年後に得られる利益を計算するには、複利計算をする必要があります。これは、どのような金融商品で運用するにしても同様です。

本来、複利計算は複雑な式になるのですが、「72の法則」というものを使えば誰でも簡単に行うことができます。これは、預けた資金が倍になるまでにかかる大まかな運用年数を算出できる法則で、以下の計算式で表されます。

元本が倍になるまでの運用年数=72/金利

これを用いて、先程の定期預金の例にあった元本500万円が倍の1000万円になるまでにかかる運用年数を求めてみましょう。この場合、金利が0.002%ですので、

運用年数=72/0.002=約36,000年

となります。一生かかっても達成できないことが分かりますよね。この点から考えても、銀行預金で運用してお金を増やしていくことは極めて厳しいと言わざるを得ません。ですがこのように「72の法則」を使えば元本が倍になるまでの運用年数を簡単に算出できますので、運用先をどこにするかを決める際にはぜひ活用してみてください。

資産運用を安定的に行うなら投資信託・ETF

多くの方にとって投資と聞いて思い浮かぶのは株式投資ではないでしょうか。ただ、株式投資で安定的に利益を上げ続けることは、投資初心者の方にとっては非常に難しいことです。先ほど申し上げた通り、資産運用を安定的に行うには「資金配分」が大切です。

そこで、投資初心者の方が資産運用を安定的に行うなら、まずは投資信託やETFから始めると良いでしょう。まず投資信託は、資産運用を業務として行っているファンドマネージャーという投資のプロが、投資家に代わって資金を分散投資してくれる投資商品です。最低運用資金も1万円程度であることが多いため、誰でも手軽に始めることができます。ちなみに、ひとえに投資信託といっても様々な種類があります。例えば、公社債のみへ分散投資する投資信託はローリスク・ローリターンの性質が強いため、より安定性を重視して運用したい方にはピッタリですね。一方、株式をメインに分散投資をする投資信託もあり、多少のリスクは許容した上で高いリターンを狙いたい方は、こうした投資信託での運用も検討してみるのも良いと思います。

このように様々な種類がある投資信託ですが、その中には、日経平均株価やTOPIXなどの株価指数と連動して運用される「ETF(指数連動型上場投資信託)」というものもあります。ETFは上場株式と同じく証券取引所に上場しているため、取引所が開いている時間帯ならいつでも売買することができます。日経平均株価やTOPIXは、多くのニュース等で必ずといっていいほど触れられています。したがってETFの価格は、今現在上がっているのか下がっているのかがいつでも分かりやすく、特に投資初心者にとってはとっつきやすい金融商品なのではないでしょうか。

資産運用で節税を行うならNISAを活用しよう

先ほど資産運用を安定的に行うための投資先を紹介させていただきましたが、投資初心者の方に意識していただきたいことはもう一つあります。それは、利益にかかる税金です。先述の通り、銀行預金で発生する利息には源泉分離課税等約20%がかかりますが、これは投資信託や株式投資から得られる利益にも課されます。ほとんどの投資初心者の方々は少額の元本から運用を始められると思いますから、そこから得られる利益もそう多くはないでしょう。したがって、引かれる税金はできる限り抑えていくことをおすすめします。これを可能にするのが、NISA等の非課税制度です。

NISAとは「少額投資非課税制度」のことで、少額の運用であれば利益にかかる税金を非課税にすることができる制度です。この非課税制度は、まず金融機関でNISA口座というものを開設し、その口座内での運用利益に対して適用されます。NISA口座が開設できるのは1人1口座までではありますが、とある金融機関で一旦開設したとしても、1年ごとに金融機関を変えることができます。

続いて、NISAの種類について説明します。NISAの種類は現在三つで「一般NISA」「つみたてNISA」「ジュニアNISA」となっており、いずれも投資資金はいつでも引き出すことができます。ジュニアNISAというのは未成年対象の口座(開設できるのは2023年まで)ですので、ここでは「一般NISA」「つみたてNISA」について解説します。まず一般NISAでは、一年間で投資できる上限は120万円、運用できる期間は5年です。つまりこの期間に生じる運用益は非課税になります。国内外問わず様々な株式・投資信託などに投資できるため、非課税枠を活かしつつもある程度柔軟な分散投資ができるのは魅力と言えるでしょう。一方、つみたてNISAの場合、一年間に投資できる上限は40万円です。運用できる期間(非課税期間)は20年で、投資対象は投資信託のみ(金融庁の基準を満たした銘柄に限る)です。とはいえ期間が長い分だけ複利効果は一般NISAよりも高く、定期的に少しずつ投資していくことでリスク軽減の効果も期待できるメリットがありますね。安定性を重視した資産運用を行いたい方には「つみたてNISA」の方がおすすめです。

ちなみに、同じ年に一般NISAとつみたてNISAの両方を同時に利用することはできないのですが、1年単位で変更することは可能ですのでご安心ください。双方ともに満20歳以上の国内居住者であれば誰でも利用できます。2022年現在で未成年対象のジュニアNISAは2023年を持って終了することに伴い、一般NISAの加入年齢は2023年1月以降には18歳以上に引き下げられます。

節税しつつ老後の資産形成をするならiDeCo

節税ができる資産運用制度としては、NISAの他にiDeCoというものもあります。iDeCoは「個人型確定拠出年金」とも呼び、老後の資金形成を目的に資産運用を行いたい方にはピッタリの制度です。iDeCoで一年間に投資できる上限は加入者の職業・年齢等によって異なり、14万4千円〜81万6000円と幅があります。運用期間中に生じた運用益は全て非課税で、年金を受け取る時にも税制面での優遇があります。さらに、掛金全額が所得控除の対象にもなるため、メリットはとても多いですね。ただiDeCoでは、原則的に投資した資金はNISAのようにいつでも引き出すことはできません。引き出せるのは、60歳を過ぎた後になりますので注意しましょう。年金の受給を開始できる時期を60歳から75歳の間で自由に選ぶことができます。例えば、会社員の方が60歳以降も勤務し続ける場合は受給年齢を65歳まで引き延ばすことが可能です。

●一般NISA

  • 年間の投資額上限:120万円
  • 運用期間:5年間
  • 選択可能銘柄:株式・投資信託(国内外問わず)
  • 受取時の所得控除:なし
  • 加入可能年齢:日本国内に居住する満20歳以上の方
  • 引き出し可能なタイミング:常時

●つみたてNISA

  • 年間の投資額上限:40万円
  • 運用期間:20年間
  • 選択可能銘柄:金融庁指定の投資信託
  • 受取時の所得控除:なし
  • 加入可能年齢:日本国内に居住する満20歳以上の方
  • 引き出し可能なタイミング: いつでも可

●iDeCo

  • 年間の投資額上限:14万4,000円~81万6,000円(加入者の職業・年齢等による)
  • 運用期間:20~75歳までの間
  • 選択可能銘柄:投資信託・定期預金・保険など
  • 受取時の所得控除:あり
  • 加入可能年齢:国民年金被保険者、かつ20歳以上65歳未満の方
  • 引き出し可能なタイミング:原則60歳まで不可

iDeCoをメインにしつつ用途に応じてNISAを利用

NISA・iDeCoについて見てきましたが、どのように使い分けたら良いのか迷う投資初心者の方も多いことでしょう。そこで、NISA・iDeCoそれぞれの制度の特徴を考えながら、これらを使い分ける方法を紹介します。まず、メインの運用はiDeCoにすることをおすすめします。というのも、将来ほとんどの方にとって老後の資金は必ず必要になってくるからです。ただiDeCoは60歳までは原則的に引き出せませんから、老後までの間に想定される大きな支出、例えば車や住宅などの購入費、子供の学費などへの備えとしては適しません。そのような、いつでも引き出せる資金を蓄えておくには、NISAを活用します。特に、車・住宅・学費のようなまとまった資金を準備するなら、安定的な資産運用を目指すべきだと思いますので「つみたてNISA」を選ぶと良いでしょう。特段まとまった資金準備の必要がなく、かつ株式、そしてハイリスクハイリターンな性質を持った投資信託に関心がある方は、一般NISAを利用してみるのも良いですね。

日本ではこれからも低金利が続いていくことが予想されますから、銀行預金だけでは運用益がほとんど期待できません。銀行預金の一部をNISAやiDeCoなどに振り分けることで、より高い運用益を確保しつつ、同時に節税を意識しながら資産運用を行っていく必要があると言えるでしょう。

ちなみに、いずれの方法で資産運用をしていくにしても、そもそも運用に回す資金が確保できないという方もいらっしゃるかと思います。そういった方は、お給料などの収入が入ったらまず一定額を運用資金に回してしまい、残りをその他の支出に充てることを意識しましょう。収入が入って色々支出し、お給料日の直前あたりに残ったお金を投資に回そうとしても、一定額をコンスタントに投資に当てていくことはなかなかできないものです。特に老後資金の準備などは短期間でできるものではないため、20〜30代の方は今から真剣に資産運用を始めておきましょう。その手始めとしては、NISA・iDeCoは非常にメリットの多い制度です。活用を検討してみてください。

参考文献

川部紀子監修『今すぐはじめれらる NISAとiDeCo』永岡書店
藤川太『世界一かんたんなNISAとiDeCoの得する教科書』宝島社

取材・執筆:World Academic Journal  編集部