専修大学 小川健 准教授
暗号資産は投資対象としてだけではなく技術的な可能性を秘めている

暗号資産は一般的には投資対象として見られていますが、大金を失うといった事例もありリスクの高い投機というイメージもつきまといます。

ですが、暗号資産にはそれぞれに作られた目的や背景があり、仕組みを知ることでどれだけ安定した銘柄なのかも把握することができます。

そこで、そもそも暗号資産とは何か、そして暗号資産の仕組みや背景とはどのようなものか、専修大学の小川先生にお話を伺いました。

インタビューにご協力頂いた方

専修大学 経済学部 准教授
小川 健(おがわ たけし)

理学部(旧数学科)から大学院より経済学に移る。2011(平成23)年3月博士(経済学、名古屋大学)。現在の担当は、国際経済論、資源・エネルギー論、数学補充科目、貿易論など。

専門は近経貿易理論、水産物貿易(理論)、暗号資産教育、経済学教育におけるICTの活用など。貿易論に限らずマルチに活動。2015(平成27)年4月より現在の大学に移る。執筆段階では准教授。教育の工夫の一環として国際金融の講義に暗号資産教育や外貨建て保険等を取り入れてきた。

皆さんは、暗号資産にリスクの高い危険な通貨というイメージを持っているのではないでしょうか。暗号資産に対するリスキーなイメージには、正しい面もありますが誤っている面も存在します。前提として、価格変動の激しい暗号資産は投資対象としてはリスクが高いことは否めません。価格変動の激しさから投機、すなわちギャンブルになりやすいのも事実で、資産の大半を失ってしまうケースが多いことも皆さんがご存知の通りです。さらに、暗号資産には詐欺が横行していることもマイナスイメージを加速させている要因のひとつでしょう。

しかし、実は暗号資産は数多くの技術的革新を起こしています。例えば国境を超えた取引はこれまでより容易になり、ブロックチェーン技術も徐々に暗号資産の範囲を超えた活用方法が始められています。暗号資産についての技術的な内容は投資には関係がない、と思う方も多いかもしれません。ですが、暗号資産それぞれの理念や仕組みを理解すれば、投資の際のリスクも低下します。ぜひ、暗号資産を投資対象としてだけでなく、大きな可能性を持つ技術としても認識していただきたいと思います。

暗号資産とは?日本国内での定義について

最初に、「暗号資産とは何か」を説明していきましょう。実は言葉のまま、「暗号を使った資産」という解釈はそれほど間違っていません。正確に突き詰めていこうとすると法的な答えと技術的な答えが異なるのですが、簡単に理解するなら「暗号技術を利用した資産のようなもの」といえます。法的な答えは国によって定義に違いがありますが、日本の場合は以下の通りです。

不特定の者に対して、代金の支払い等に使用でき、かつ、法定通貨(日本円や米国ドル等)と相互に交換できる電子的に記録され、移転できる法定通貨または法定通貨建ての資産(プリペイドカード等)ではない
参照:暗号資産(仮想通貨)とは何ですか? : 日本銀行 Bank of Japan

わかりやすくいうと、「1.誰でも支払いに使えて、円やドルなどの外貨と交換でき」「2.ネットでやり取りが可能で」「3.円やドルなどの外貨、円建ての資産などは含まない」これら3点を満たす財産的価値が、日本では暗号資産として扱われています。例を挙げると、古くから存在する暗号資産XRP(旧称:リップル)は、1~3全ての条件を満たしています。XRPの価値はリアルタイムに変動しており、交換業者によっても異なる価格で取引されているため、法定通貨にも、法定通貨建ての資産にも該当しません。そのため、XRPは法的には暗号資産に含まれる、となります。

暗号資産の分類は法的に見るだけでも多岐にわたる

しかし、一般的には暗号資産として一括りにされていても、詳しく見ていけば分類が異なるケースは少なくありません。そこで技術的な説明の前に、暗号資産の分類についてまとめておきます。そもそも暗号資産の代表格とされるビットコインについて「ビットコインは通貨なのか否か」については、日本では「外貨ではなく暗号資産」と定められています。というのも、エルサルバドルでビットコインが法定通貨となった際、暗号資産を外貨として扱うかどうかの選択を迫られたのですが、エルサルバドルのビットコイン法を見る限りビットコインの扱いについては日本の法律でいう外貨の定義を「満たしていない」という国会答弁が行われたためです(※参考1)。

また、暗号資産そのものに含まれないものとしては非代替性トークン「NFT」が挙げられます。もはや生活の中で日常的に使われているSuicaや楽天Edy、waonといった電子マネーについても、日本円建ての資産なので暗号資産ではありません。ステーブルコインも、(以下の説明の中で一部修正しますが)原理的には「価値が保たれているなら法定通貨である日本円建ての資産にあたるため、暗号資産にはならない」といえます。ステーブルコインとは「何らかの形で価値を安定させた暗号資産」で、価値の保存方法は下記表のように様々なパターンがあります。

タイプ主要コイン価値保存方法
法定通貨担保型テザー、USDコイン、JPYCなどUS$や日本円などと価値を連動させる
コモディティ(商品)担保型テザー・ゴールドなど金などと価値を連動させる
暗号資産(仮想通貨)担保型ダイ(DAI)などビットコインなど主な暗号資産と価値を連動させる
無担保型昔のテラUSDなどプログラムによって価値を保つ
参考:ステーブルコインとは?初心者向けに解説【2022年版】-TheFinance

例として、法定通貨担保型のステーブルコインGMO Japanese Yen(GYEN:バイナンス等の交換業者で扱いがあります)(※参考2)は、発行分の裏付け資産を管理団体が保有することで、円などの指定通貨に固定レートでいつでも交換できるようにしています。一方で、無担保型のステーブルコインは価格が上がりそうになると売り注文で価格を下げ、下がりそうになると買い注文を出して価格を上げる、というプログラムが組まれています。こうしておくと、裏付け資産がなくても一見価値を安定させることができる、という仕組みです。

このような理由から、ステーブルコインの原理的に「価値が保たれているなら法定通貨である日本円建ての資産にあたるため、暗号資産にはならない」といえます。しかし、後ほど詳しく説明しますが、ステーブルコインの価値保存方法にはいずれも問題点が存在し、実際に価値を安定できなくなった事例が出てきています。そのため、専門家の間でもステーブルコインを暗号資産に含めるかどうかは意見が割れており、日本の法律でいえば「無担保型」は法的に暗号資産として扱われていますが、「担保型」は交換業者への規制が入っています(※参考3)。

こうした事情から、裏付け資産を外部に委託し、価値を安定させるステーブルコインとして「民間デジタル通貨」(※参考4)も現れました。例えば、日本円と連動するDCJPY、旧Facebook(現:Meta)が中心となって組織した「旧・リブラ協会」の「旧リブラ(Libra)」などは民間デジタル通貨として構想されたものです。一般的に、価値の安定が充分見込まれる民間デジタル通貨は価値の安定が完全とは言い難いステーブルコインとは区別されており、価値の安定が保たれているために法的な暗号資産にも通常は含まれません。

同様に、中央銀行デジタル通貨(CBCD)も中央銀行が発行していることから価値が保証されており、棄損の心配がないので暗号資産には含まれないとされることが一般的(※)です。デジタル人民元や、サンドダラーなどが中央銀行デジタル通貨(CBCD)にあたります。

種別分類主要例
ステーブルコイン意見が分かれるテザー、USDコイン、JPYCなど
民間デジタル通貨一般には暗号資産ではないDCJPYなど
中央銀行デジタル通貨(CBCD)暗号資産ではないデジタル人民元、サンドダラー、eナイラなど
※通貨は「法的な強制通用力を持つ貨幣」などが語源とされている関係で、「民間デジタル通貨」という言い方を嫌う見方もあります。

このような価値の安定は、暗号資産を投資対象として見る場合にも重要なポイントです。投資したい暗号資産の価値が安定しているかどうかをチェックするためにも、こういった分類を知っておくことをおすすめします。

「ブロックチェーン」技術は改ざんが困難という特性を持つ

続いて技術的な側面からも暗号資産とは何か、見ていきましょう。技術的な意味では、暗号資産は「分散型台帳技術(DLT)※」を利用した「記録のやり取り」の結果として「資産的価値を持ったもの」といえます。例えば、ビットコインは2009年に登場して以降の全取引が記録・公開されており、どのIDにどれだけの価値が残っているのかが誰でも把握できます。一方で、IDを所有しているのが誰なのかは通常わからないようになっているため、疑似匿名性は確保されています。(ここでは、分散型台帳技術をブロックチェーン技術よりもやや広い意味合いで説明しています。)

そして、「1点ものとしての区別はされない」点も暗号資産の特性です。最初の暗号資産であるビットコインを実現する仕組みとして考案されたものはブロックチェーン技術と呼ばれるもので、専門的な説明を入れると非常に複雑ですが、簡単にいえば「旧来技術に新たな技術を加え、改ざんを困難にした取引履歴の連なり」です。

旧来の技術とは、「公開鍵暗号方式」と「P2P(Peer to Peer)技術」を指します。ブロックチェーン技術はこれら2つに、皆で監視ができる新しい技術を加えて作り出されました。1つ目の「公開鍵暗号方式」は、メールやSNSなどでも用いられている技術です。例として、秘匿性が高い情報を送信する際にはパスワードをかけますが、相手がその情報を見るにはパスワードも送らなければなりません。つまり、相手にパスワードを伝える過程で盗まれる・改ざんされるといった危険性があるのです(これが問題視された点として、現在では危険性が指摘されて変更が推奨されている「添付ファイルのパスワードは後で送る」PPAP送信があります)。公開鍵暗号方式は、鍵の機能を2つに分け、片方のみをオープンにすることでこうした問題を解決する手法です。イメージとしては、南京錠は鍵が無くても誰でも本体に鍵をかけることはできますが、開けるのはその鍵を持つ人しか出来ない,という在り方に近いものです。電子署名もこの方法を応用します。

2つ目の「P2P(Peer to Peer)技術」は、データを分散して共有・管理する技術を指します。普段、私たちがデータのやり取りを行う際には、特定のサイトなどにアップされたものをダウンロードしています。しかし、この方法は大元のデータが壊れていたり、サーバーダウンなどが生じてサイトにつなげなくなればダウンロードも不可能になります。だからこそ、データを分散させることは非常に重要なのです。「P2P技術」を活用すると、データを持っている1人1人のPCから、データを少しずつコピーすることが可能になります。すなわち、データを配信する大元のコンピュータやサイトが不要になり、データの破損や接続不良といったトラブルに悩まされることが減るのです。

ただし、「公開鍵暗号方式」と「P2P技術」だけだと、暗号資産に対して求められた「価値を送る」ことについては十分ではありませんでした。そこで、最初の暗号資産であるビットコインの開発にあたって「Proof of Work(仕事量による証明)」という方法が考案されました。暗号資産はあくまでもデータなので、法定通貨の円やドルのような紙幣やコインは存在せず、国家による価値の保証もありません。では、ただのデータである暗号資産の現在の価値をどうやって保証するのか。ビットコインのオリジナル・ブロックチェーンが導き出した答えは、初めから全ての取引を記録して検証可能にすることでした。そして、記録の束に新たな取引の記録を安全につなぐ方法として考案されたのが「Proof of Work」です。

こうした「ある時期における取引の塊(ブロック)を鎖(チェーン)のようにつなぐ」ことが、ブロックチェーンの言葉の由来となっています。まずネットワークの中で発生した取引を記録しておき、1つ前の内容とともに「ブロック」に格納します。その後、ブロックを時系列順につなげ、誰でも閲覧できる状態で記録を公開しておくのです。しかし、情報を公開することには改ざんのリスクが伴うため、「Proof of Work」では新たな記録をつなげる時の権限を制限しました。

ブロックチェーン技術における権限の制限とは、接続作業への参加者を意図的に絞らないようにする仕組みです。特にビットコインのオリジナル・ブロックチェーンが代表的で、原理的には誰でも記録をつなぐことができます。オリジナル・ブロックチェーンは、中央銀行による管理通貨制度を問題視していたことが誕生のきっかけといわれています。それまで、通貨取引は銀行など一部の組織しか承認できない体制を取ってきましたが、必然的にその組織に権力が集まってしまうという問題点も抱えていました。最終的には、特定の組織のみが力を持つ中央集権的な体制になる事例が多かったのです。

例えば1970年代は、各国の中央銀行が一元的に通貨量を管理するようになった時期でした。ですがそこには特に裏付けがなかったので、政策運営を間違えれば通貨価値が大幅に下落し、通貨・貨幣が貯蔵や尺度といった本来の役割を果たせなくなるリスクもありました。2008年のジンバブエ、2018年のベネズエラで起こったハイパーインフレがまさにそうです。日本でも、2012年1月から1015年1月までのたった3年間で、実効為替レートは30%以上も対外的な価値を失っています。最近だと、2021年9月頃には1ドル110円だったものが2022年10月には1ドル150円まで円安状態となっていて、20%以上も価値が下落しています。価値の毀損の原因はひとつには絞り込めませんが、中央銀行や政府の独断による影響が全くないとはいえないでしょう。

そのため、ビットコインのオリジナル・ブロックチェーンでは原理的には誰でもブロックの接続作業に参加できるシステムを構築しました。ただし、誰でも接続作業ができるということは、悪意のある介入を防がなければ安定した運営はできません。この問題は、専門用語で「ビザンチン将軍問題」といわれるものです。問題の内容を簡単に説明すると、敵を倒すには全軍の一斉攻撃が必要な状況下で、一斉攻撃への賛否が分かれている中で多数決で決める状況において、組織崩壊を目論み一部にだけ偽の命令を伝えようとしている裏切者が内部に存在するとします。組織を守るためには裏切り行為を見抜かなければならないので、伝令に時間がかかるような仕組みをあえて設けるのです。例えば、1つの伝令を送るには解読に1日かかる暗号を解く必要がある、とすれば「突撃せよ」「待機せよ」の2つの伝令を送るために2日を要します。本来なら1日で届くはずなのに2日かかれば「裏切りがあったのかもしれない」と警戒することができ、一部の部隊にのみ「突撃せよ」という命令がきても全滅を回避できるわけです。

「Proof of Work」でいうと、ビットコインではブロックをつなぐ時、その時代の最先端のコンピュータでも計算に平均10分かかる問題を解かなければいけません。問題には誰でもチャレンジできますが、ブロックの接続ができるのは問題の答えを1番速く見つけた人だけです。そして、正解を最も速く見つけた人だけがマイニング報酬を得ることができます。マイニングとは本来、金鉱を掘ることですが、最先端のコンピュータを使っても平均10分かかる問題でヒントもないので、問題を解くには総当たりで答えを探さなければなりません。この総当たり作業をマイニングと呼びます。仮に途中でデータが改ざんされても、ブロックチェーン技術においては最も長いチェーンが正しいものとして扱われます。つまり、改ざんを成立させるには日々長くなっていくチェーンよりも長いチェーンにしなければならないわけですが、世界中の膨大な計算によって日々つながれている正統なチェーンを超える量の計算は容易ではありません。それなら、改ざんをするより接続作業で真っ当な報酬を得る方が旨味があります。改ざんを100%は防げないことを逆手に取って、改ざんの意欲をなくさせることに焦点を当てているのがブロックチェーン技術ならではの特性です。

ブロックチェーン技術は現在も進化し続けている

ただし、ブロックチェーン技術への攻撃が全くなかったわけではありません。オリジナル・ブロックチェーンでは技術的な不正は一度も起きていませんが、改ざんは「100%不可能ではない」ことが知られています。「Proof of Work」型の中では、2018年にモナコインやビットコインゴールドのブロックチェーンに帯する「51%攻撃」(特定のマイナーが計算処理能力の51%以上を支配することで、本来不正な取引を承認させてしまうこと)などが行われ、取引記録の「巻き戻し(ReOrg)」が発生しました。2019年には、イーサリアム・クラシックも攻撃を受けた過去があります(※参考5)。

こうした経緯から、オリジナル・ブロックチェーンの成立後、ブロックチェーン技術は改良が続けられてきました。今では「Proof of Work」は数多くのブロックチェーンで取り入れられていますが、中には狭義のブロックチェーンには該当しなくても、広義の分散型台帳技術といえる方法を考案・採用しているケースもあります。「Proof of Work」の改良方法、ブロック接続権限割当の代替案としては、主要なものだけでも以下の4つが挙げられます。これ以外にもあります。

  • PoS(Proof of Stake):保有量が多い人に接続権限を優先的に渡す
  • DPoS(Delegated Proof of Stake):保有量に応じた取引承認の投票権を割り振る
  • PoI(Proof of Importance):直近の取引量を重視して接続権限を優先的に割り振る
  • PBFT(Practical Byzantine Fault Tolerance):外部接触をする担当と承認担当を分けて相互監視をする

皆さんもよく知っている、2018年のCoincheckでのNEM流出事件は「PoI」の仕組みを使っていました。ただし、NEM流出事件の主な原因はブロックチェーンへの攻撃ではなく、業者のミスで、類似例のDAO事件も同様です。「Proof of Work」の改良は続けられていますが、基本的には他の認証方法への移行が検討されていて、2022年9月には有名なブロックチェーンの1つであるイーサリアム・ブロックチェーンでProof of WorkからProof of Stakeへと変更されました(※参考6)。Proof of Stakeは(問題を解く必要が無い分)Proof of Workより電力消費が少ない等のメリットがある反面、接続権限が分散しなくなってくる等の指摘もあり、現在でも色々な方法が検討されています(※参考7)。

ここで私がお伝えしたいのは、ブロックチェーンへの攻撃や交換業者の失態、大暴落があったからといって、暗号資産がもう終わったと考えるのは早計だということです。世間ではFTX交換業者の経営破綻も有り、米国においては銀行組織が暗号資産を持つことへの警告が共同声明として出ましたが、それは仕組みやリスクを理解せず無計画に信頼することへの警鐘と言えるでしょう(※参考8)

ビットコインが誕生して以来、暗号資産、そしてブロックチェーンを含む分散型台帳技術は今も発展を続けています。暗号資産の数は5,000を遥かに超え、オリジナル・ブロックチェーンの登場以降、多数のブロックチェーンの開発が行われました。特に、イーサリアム・ブロックチェーンに実装された「プラットフォーム」と「スマートコントラクト」という2つの機能は、その後のブロックチェーンの多くに影響を与えることになりました。

「プラットフォーム」とは、ブロックチェーンを銀行間送金やゲームアプリ、教育機関や公共機関など、暗号資産以外のものにも記録場所として割り当てができる仕組みを指します。この割り当ては株式やFXでも可能なので、投資家の方にとっても身近な話といえます。非代替性トークンのNFTも、イーサリアム・ブロックチェーンに情報を書き込めば事実上のシリアルナンバーをつけられるので、唯一無二の1点ものとしてやり取りできます。

「スマートコントラクト」は契約の自動執行が可能になる仕組みで、Suicaで自販機のジュースを買うイメージです。ジュースを買うと、Suicaから自動的に料金分が引き落とされ、購入記録が残ります。ブロックチェーンにおける「スマートコントラスト」はこのようなイメージの仕組みであり、特定のコンテンツとその対価となる暗号資産が揃った場合に限り、自動的に両者の交換を行います。そして、自販機でのSuicaを使ったジュース購入と同じように、返品が不可能で記録もされるため、通販などでよくある商品が発送されない、商品を送ったのに代金が支払われない、といったトラブルの防止が可能になります。応用的な使い方としては(NFTの応用例の1つとして知られているものですが)、アナログなアート作品を販売する際、移転販売収入の一部を作者にも渡るよう自動設計しておけば、作品の持ち主が変わる過程で作者に収入が入る仕組みを作ることも可能です。こうした様々な改良方法の考案によって技術が発展し、ブロックチェーンを含んだ分散型台帳技術は暗号資産だけでなく、現実世界で使われるケースも増えてきています。

暗号資産の仕組みと背景を知ることで投資リスクが下がる

暗号資産を投資対象として見るのであれば、ぜひ暗号資産の仕組みを知り、未来への可能性を応援するという選択肢も持っていただきたいです。暗号資産が5,000種類を遥かに超えることは先ほど触れた通りですが、どの暗号資産に投資するかを決めるには将来性や信頼性をチェックするはずです。例えば、中米エルサルバドルがビットコインを法定通貨に加えたのは、国際送金による膨大な送金手数料が負担となっていたことが大きな理由でした。ただ、エルサルバドルによるビットコインの法定通貨化は一般にはなかなか浸透していないため、失敗だと指摘する声が多いことも事実です。これは一般国民・在住者への説明・教育周知が十分に行われていなかったことが原因のひとつであり、仕組みが認知されていれば結果は違っていたかもしれません。または、エルサルバドルでは元々米国ドルの流通が多かったので、米国ドルと連動しているステーブルコインのテザーを法定通貨に加えるという手もあったでしょう。

日本でも、銀行間をまたぐ送金を行うと手数料が発生します。本来なら銀行をはじめ、あらゆる金融機関を同じネットワークで接続していれば高額な手数料はかかりませんし、よりスピーディに、少ないミスでの取引が実現できるはずです。こうした構想を掲げているのがリップルネットワークです(※参考9, 10, 11)。

また違った事例として、カルダノADAはブロックチェーン技術による人件費の削減で、公正なカジノを実現することを目的として構想された暗号資産です。日本の場合、公営ギャンブルの競馬だと払い戻し率は70~80%で、宝くじは50%未満となっているため、地方財政などの補填にも回されると考えれば、掛けた額から払い戻されない部分が生じます。それを思えば、掛けた額が平均的に返ってくる公正な賭けの実現は重要性が高いといえるでしょう(※参考12)。

実際に投資をするなら、暗号資産は基本的に株式やFXに比べて価格変動が激しいことを理解し、予備知識をつけることでリスクをカバーしていくことが大切になります。例えば、暗号資産の代表格といえるビットコインは(本来その価値は米ドルで測る方が妥当性は高いのですが敢えて分かりやすく)日本円で測ると、2017年の1年間だけで約20倍の価値に跳ね上がりました。ですが、その後たった半年で価値は1/5になり、近年でも半年で5倍になった価値が8ヶ月で1/3に下落しています。暗号資産には全体的にこうした特性があるので、もし値上がりを期待して長期保有するガチホ(ガチホールド)をしたいなら、暗号資産の背景にある理念、そして設計をよく見ておかなければなりません。ビットコインは、もともとは理想的な未来のお金として期待を集めていました。しかし、ビットコインを法定通貨としたエルサルバドルでさえ、一般庶民の間でビットコインは日常的に使われる通貨にはなっておらず、幻想はすでに崩れ去っています。

ただ一方で、ビットコインで開発が続いてきたライトニング技術の発展により、世界共通のキャッシュレス決済方法が登場したことで手数料を大幅に抑えられるようになりました。また、「草コイン」と呼ばれるマイナーな暗号資産同士の取引では今もビットコインを媒介に利用する関係上、ビットコインにはまだまだ大きな存在価値があります。他にも、イーサリアムは自律的に動くアプリケーションの開発や実行のためのお金という側面があり、日常的にやり取りをするためのお金という位置付けではありません。XRP(旧称:リップル)についても、「価値のインターネット」、すなわちリップルネットワークを円滑にするための暗号資産です。こういった暗号資産それぞれにこうした背景があるため、背景を理解した上で現在の立ち位置を知れば、投資対象としての安定性も測りやすくなるでしょう。

安定性という意味では、ステーブルコインは特に仕組みを知っておくべき暗号資産といえます。ステーブルコインは基本的に法定通貨に価値を連動させているものが多いのですが、TITANやテラUSDはプログラムで価値を安定させる無担保型のステーブルコインであり、1つのバグで価値が暴落するリスクがあります。裏付け資産を持っておく方式も、裏付け資産の使い込みが行われれば価値が保てなくなり、昔問題になったテザーのように価値が崩れてしまいます。実際にテラUSDは価値が暴落してしまいました。法定通貨担保型にしても民間デジタル通貨がステーブルコインと分けられているのは、こうした使い込みを防ぐためなのです(※参考13)。

そもそも、ステーブルコインの本来の役割を考えれば、投資対象となるべきものではありません。ステーブルコインは他の暗号資産を購入するための一時的な保有手段なので、将来的には先進国のルールに合わせたものと、(ミャンマーで軍事クーデターにより追われた亡命政府が注目した)テザーのように途上国でのデジタル・ドルの代わりになるものへと分岐していくでしょう(※参考14)。投資という側面で見る場合に大切なのは、両者の違いを理解した上で扱い方を決めるということです。また、「草コイン」と呼ばれる暗号資産は現在の価格が低いため購入しやすく、将来の値上がりを期待させるようなうたい文句も多いため、魅力的に感じるかもしれません。しかし、草コイン関連は取引の整備が十分ではなく、日本語対応外となっていることもあるため、初心者のうちから手を出すことは控えるべきです。投資は自己責任で。

とはいえ、投資リスクとして考えればビットコインのような主要な暗号資産なら絶対に安心、というわけでもありません。ビットコインは当初、各中央銀行の金融政策から独立した位置付けの通貨として期待されていました。ですが、近年ではリスクオン資産として金融政策の影響を受けた動きをしやすくなっています。さらに、ビットコインは暗号資産におけるハブ貨幣としての役割を担っているので、ビットコインの価格変動には主要暗号資産の多くが連動する状況になっています。

つまり、投資リスクを抑えるには投資対象を暗号資産のみに限定するのではなく、あくまで資産保有の手段のひとつと考えることが大切です。暗号資産をオンラインで保有しておくのであれば損切り設定も大事ですし、交換業者がサイバー攻撃を受けるリスクを考えればネットから切り離して保管する「コールド・ウォレット」の形を取ることも欠かせません。適当に暗号資産を購入して交換業者に置いておき、値上がりを待つというスタイルは、リスクが直撃する可能性が非常に高いでしょう。

かつてはゲームの中のものでしかなかったオンラインのお金は、暗号資産として進化を遂げてきました。バーチャルなお金の多くは現実世界への換金が可能になり、「スマートコントラクト」などの暗号資産から生まれた技術によって、商品未着・代金未納の双方を防げるようにもなっています。それだけでなく、暗号資産の存在は国境を超えた取引を活性化させており、主要暗号資産に対する先物市場の整備、ビットコインによる現物・先物ETFの整備なども色々な国を見ると徐々に始まってきています。投資対象としてだけ暗号資産を見ていると、単にリスクの高いギャンブルだと感じるかもしれません。ですが、暗号資産それぞれに込められた理想を知れば、暗号資産があることで初めて作れる世界があることもわかるはずです。その奥深さに触れていただき、どの暗号資産の未来に投資するかを決めて欲しいと願っています。

取材・執筆:World Academic Journal  編集部